応援メッセージ
糸井重里さん
犬って、犬のかたちをした愛だと思うんです。

訓練士歴43年の多和田悟理事と、愛犬や盲導犬について思うこと、仕事のありかたや生き物の死に対する考え方など、話が弾みました。=(株)ほぼ日にて
2016年度ACジャパンのCM「盲導犬会議」を見た糸井さんが、ツイッターで取り上げてくださったことで、このCMが話題となりました。また50周年記念式典では、あるユーザーが糸井さんの言葉を引用して次のように述べました。「愛を形にすると、それは犬である」。それはどんな背景から生まれてきた言葉なのか? 糸井さんに直接会ってお話をうかがうことができました。
※盲導犬くらぶ89号(2018年1月15日発行)に掲載された糸井さんからの応援メッセージを紹介します。
「犬って、愛。」その言葉のおおもと
多和田:糸井さんのところのブイヨンはまだ14歳ですね。
糸井:14歳と半年たちますね。
多和田:犬って素直に生まれてから死ぬまで全部をみせてくれます。僕は昨年7月に16歳と7ヵ月でゴールデン・レトリーバーを亡くしました。亡くなる1週間前まで歩いていて、ある朝起こしに行ったら起きてこなかった。
糸井:自然ですね、そういうのがいいなあ。ブイヨンは最近寝ている時間が長くなって、こちらが「どうする?」って起こしに行きますからね。寝ている時間の側が濃くなることが死ぬということなのかなぁと。そして犬を見ているっていうのは、結局自分を見ていることだと思うんですよ。無意識で自分や自分たちを見ている視線で、犬にいらだつこともなくはない。それは、自分にいらだちがあるのが反射して見えてくるということで、すごく分かりやすい。
多和田:まさに鏡ですよね。
糸井:ほんとうに。犬が平和で健やかに暮らしている場合には、家族でどんなにののしりあうことがあっても、言葉にはなっていない落ち着いた愛の形があると思うんです。反対に恋愛状態の男女が飼っていた犬を、別れる時にどっちが引き取るか、みたいな話はよく聞くことです。 「犬って、愛」というのは、おおもとはそんな不幸なケースから思いついたことです。
多和田:でもすごくポジティブに捉えている。
糸井:自分の経験からも犬が健やかで豊かに暮らしているというのは、その家の愛を示していると思うんですね。そういうことがたくさんの人に伝わるのはうれしいですね。
多和田:人は優しさを持っていて、誰かの役に立ちたいと思っている、僕はそう考えているんです。盲導犬育成を応援するという形でそういう意思を表す人もいます。
糸井:犬や猫より人間の方が個の動物だと思うんです。群れるにしても、個と個が手をつなぎあう。でも犬は「あなたがいなければいけない関係」をお互い作ろうとしますよね。
多和田:しかも自然にやりますね。人みたいに下心がない。
糸井:相当独立しているように見える犬でも、独立しているふりをしているだけで、実は人間がいなくてはならない。あれは、人間にとっても必要な栄養素だと思うんで、それを受け取れるだけ幸せだと思うんですよね。でも、犬が年をとると、絡みついてくるような関係を強く持とうとするわがままが減ってくるんで、それが寂しい。もっと迷惑をかけてくれっていうか。
多和田:犬が迷惑をかけてくれると安心しますよね。
犬は、本当に「仕事がお好きな方々」
糸井:犬種によって訓練って違うんですか?
多和田:違います。ジャックラッセルは難しいですよ。でも色々なことができるようになってくると、用のない時も「さーやれ」って催促してくる。
糸井:犬はほんとに「仕事がお好きな方々」ですからね。
多和田:しかも仕事と思ってない。楽しんでいる。
糸井:そう、楽しみなんですよね。今うちのコ(ブイヨン)は、それがないから寂しいんですよ。ボールを投げても取りにいかなくなった日があったんです。ああそうか、猟犬をやめたんだな~と思って。仕事はしないけど今まで猟犬のつもりでいたと思うんですよ。ボールを取りに行く回数が段々減ってきて、とうとう転がしたら見るだけになっちゃって。
多和田:人で言うところの定年ですね。
糸井:そうか、定年か!
多和田:ブイヨンはボールを取ってくること、家族を面倒がらせることが仕事だったんですね。犬はみんなちゃんと仕事しているんですよ。仕事がない方がかわいそう。
糸井:あと見張りっていう大きな仕事がありました。テレビに向かっていつも怒っていました。動物が出ると、この縄張りには入れないぞって。犬は仕事が大好きですからね、雪の中をグルグル回っている犬とか何やっているんだろって。犬はギャラの出ない仕事をしているだけ。
多和田:そう、忙しいんですよ。
愛犬のブイヨン(ジャック・ラッセル・テリア14歳)。ほぼ日が運営する犬猫SNSアプリ「ドコノコ」にも登場します。
盲導犬も普通の犬。優等生とおもわれるのはかわいそう
糸井:盲導犬って、いい子ちゃんだとみんなが思っていますよね? でも違うんでしょ?
多和田:普通の犬です。僕は、盲導犬は最高の家庭犬だと思っていますから。
糸井:いいなぁ~。
多和田:僕は盲導犬クイールにかかわったんですけど、その映画を映画館で観た時、みなさんが最後泣いていました。それを見て、なんでその映画がうけたのか、 やっと分かった。みなさん自分が一緒に時を過ごした犬、自身のライフを思って泣いている。盲導犬は失敗もするし、いらんこともする。やっと盲導犬を「うちの犬」と同じレベルで捉えてもらえるようになったんだと思いました。だからこそ、盲導犬は最高の家庭犬であるべきだと思うんです。
糸井:全体に親しみをちょっとずつ増やしていくってことが、いろんなことをする時にはとっても大事で、今上野の動物園でパンダ舎の見学が始まっていますけど、今回のパンダは僕らが想定してたよりもちょっとピンクだったじゃないですか。あれが「なんで」という疑問を生み出して、その答えを探したから、みんながちょっと余計にパンダのことを知るようになった。知っていても知らなくてもどっちでもいいことをちょっと知っているっていうことが親しみだと思うんです。盲導犬については、お利口ないい子たちっていうことでまとめられている気がする。そこが残念ですね。今回のCMがよかったのは、犬たちの人柄が普通の人たちだったじゃないですか。
多和田:この犬たちは何代にもわたって人が大好きな犬たちなんです。
糸井:顔に書いてありますよ。「人が好きです」ってね。
多和田:犬たちは「人も、僕らがいなくちゃだめでしょ」とか言いそうですよね。
糸井:いいですね~。この子たちはみんな本名なんですよね。
多和田:はい。現役の盲導犬で、この犬(ポスター中央)のユーザーはご夫妻で一頭の犬を使用していて、一人がハーネスを握って、もう一人が手引きを受ける。このご夫婦から、時々酔っぱらって電話がかかってきます。「いい犬をありがとうね」と。人に頼まないで外に出られるのは私たちにとってはすごいことで、この子にとっては喜びだと。それでも盲導犬がかわいそうという方もいる。
糸井:人って無意識に、他人に優等生を押し付けているんじゃないかな。「盲導犬は普通の犬だよ」っていうこと、それとセットになって「犬を連れている人も普通の人だよ」って思った方がいい。だれでもわがままは言うし、でたらめやウソも言う。でも遠慮からくるものなのか、ハンデのある人が神格化される傾向がある。これは(見える人、見えない人)両方にとってよくない。障がいをもった人もどこかで遠慮していて、いい子でいなきゃと感じているのでは。目が見える見えないは関係なくて、もしその人が変なことを言ったとしたら、バカヤローって言える真の関係を築かなければいけないと思いますね。それから、無意識にみんな盲導犬はいい子だと思っているんですよ。いい子だって思いたいんです。ドラマを観る時、自分の好きな俳優がいい子を演じていたら、いい子だねっーて言うじゃないですか。人は現実じゃないファンタジーを見たいんですよ。でもそれは時には迷惑だから、お互いに分かろうねって、それが大切じゃないかな。

2016年ACジャパンポスター「盲導犬会議」を見ながら話をする2人。糸井さんの目にとまり話題となりました
「自分を含めて喜ばせること」
多和田:僕にとって糸井さんは、楽しいことを一生懸命探している大人だと思うんですよ。僕も、楽しいことを仕事にできて本当にありがたいと思っています。
糸井:最近、「自分を含めて喜ばせる」という言い方をしているんです。つまり、お客さんを喜ばせるだとか、みんなを喜ばせるっていうのは、皆言うんですけれど、そこに自分を混ぜるかどうかです。そうでないと喜ばせるために、自分を苦しめてもいいってことになっちゃう。
多和田:盲導犬は、特にそこで誤解されていますから。「目の見えない人、見えにくい人が、行きたい時に行きたい場所へ行けるように」という協会の使命があるんですが、その言葉の前に、「犬を含め誰の犠牲の上にも立たず」と必ずつけるんです。犬も含め、ユーザーやボランティア、訓練士も、盲導犬育成にかかわる人すべて、誰の犠牲の上にも立たない盲導犬歩行。盲導犬が尻尾を振って、人が楽しそうに歩いている姿が理想なんです。
糸井:そこですよね……そこ大事だと思う。
多和田:誰かの犠牲の上となると、あなたが歩くために犬が犠牲ですよ、あなたが歩くようになるために家族が犠牲になっていますよ、となる。
糸井:借金の連鎖みたいになるんですよね。負債を抱えて表に出かけて行くって考えたら、目の見えない人もつらいですよね。先ほどの、こんないい子がきてくれてありがとうっていう気持ちがベースですよね。
多和田:犬はいやなことがあっても明日に持ち越さない。快か不快かしかない。
糸井:快楽主義、それはちょっと見習いたいですよね。犬に学ぶっていうのは大げさな言い方だけど、「それでいいよね」ってことは山ほどありますね。

●糸井重里(いとい・しげさと)
1948年群馬県生まれ。コピーライター、作詞家、ゲーム制作、エッセイストとして活躍。1998年にWebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設。㈱ほぼ日代表取締役。犬猫SNSアプリ「ドコノコ」も運営。



