このページの本文へ
以下は通常ブラウザ用のメインメニューです。
(犬を含め誰の犠牲の上に立つことなく)
目の見えない人、目の見えにくい人が、
行きたい時に、行きたい場所へ行くことができるように、
私たちは、安全で快適な盲導犬との歩行を提供します。
この使命を達成するために我々職員は協会の活動を支援して下さる人や企業、団体と共に盲導犬を育成し、視覚に障害があるために歩行に困難を感じておられる方々に歩行指導を行っている。
カッコで括った「犬を含め誰の犠牲の上にも立つことなく」の「誰」とは具体的に誰なのであろうか?本企画ではそれを紐解きながら、日本盲導犬協会が目指す盲導犬育成事業についてシリーズでお伝えしていきたい。
盲導犬に作業を教える盲導犬訓練士と、その犬を使って視覚障害者が安全、快適で自由な歩行を創造するために歩行指導を行う盲導犬歩行指導員(注)とでは求められることが違う。まずは盲導犬訓練士について説明をする。
盲導犬を訓練する時の課題は、犬が“角”“段差”“障害物”の発見をし、その情報をハンドラーである視覚障害者に提供することである。これらの課題を犬自身が学び、最終的には作業を自発的に行うようにする。
第1話でも言ったとおり私は、犬の学習の前提として“犬は快と不快の2進法で上書き学習をする”と定義するが、作業を出来るようにするため、この快を「正しい、それで良い」という意味で利用する。褒める時「Good」という言葉をかけて、犬が今まで経験してきた喜びの感情と言葉とを関連付けるようにする。また不快を「違う」という意味として利用し「No」という言葉と関連付けるが、この場合は犬が行動を起こさない以下の4つの理由から考えて、正しい行動がとれるよう再度指示をする。
そして最後は良くできたね、という意味で次の作業への動機付けも込めてGoodで終わる。
盲導犬は警察犬などと比べ、訓練者(訓練士)とハンドラー(視覚障害者)が違うのが特徴である。盲導犬の訓練は、使う人の違いが犬のパフォーマンスの違いとなりうる親和(Personal)ベースではなく、課目(Task)ベースでなければならないと考えている。
課目ベースとは、犬がやるべきことを理解し、指示した相手が誰であれ、その課目を行うことに達成感と喜びを持てるようにすることである。その人が好きだから作業をするということだと、その人を嫌いになったらば、もう作業ができなくなる。しかし課目ベースであれば、その人が好きかどうかではなく、この作業を“しなくてはならないかどうか”によって作業をする・しないが決まってくる。
訓練士の横をリズミカルに歩いている様子の犬。訓練士の顔を見上げている
犬が学んだことを表現するうえで、動機に基づく根拠がなければ成功を続ける(正しい行動をとり続ける)ことは難しくなる。動機と根拠を混同しがちであるが、動機は犬自身の快であり、根拠はそれを行う理由である。
犬の「信用おけるパフォーマンス」と「信用おけないパフォーマンス」の違いは、犬が自発する行動が根拠に基づいているかどうかで決まってくる。根拠のない行動は継続することが難しい。人が笑顔になると必ず優しい言葉をかけて撫でてくれる。それをうれしい(快)と思える犬が、求められた作業をこの快と関連付けて遂行する時はじめて、根拠がある作業であるといえる。
ゴールデンレトリバーの顔。笑っているように見える
PCはOSという基礎の上にアプリケーションを動かすことで作業を行う。同じように犬と人との関係の中では、犬自身が「人は自分に何かを話し何かを求めてくる、そのことは楽しい」ということを知らなければならない。
犬から見て人は肯定的な関心の対象でなければならない。そのうえで人が自分(犬)に対して何かを求めてきていることを意識し、結果としてその作業をするようになる。ほとんどの場合最初は、偶然に起こった出来事を褒めて犬に快とし、その作業に関連する指示語を認識させる。
次にその指示語と関連付けて人の指示でいつでも再現できるようにしていく。その過程においても作業の紹介、強化、トライアル&エラー、ネガティブサポートと学習を固定していく。これは例えば段差で止まることを教えるときに
段差(昇降とも)を通過する時に歩行速度を落として直角に侵入し指示語である“カーブ”を聞かせる。その時同時に段差を通過する時に足裏で音を立てて指示語との関連付けをする。
最終的に犬が段差(昇降とも)で自発的に停止をするために、最初は人が100%犬を止めるが、最終的には犬が自発的に停止するように人の関与のレベルを変えていく過程。
強化のレベルが80%くらいに達したら、犬に判断させ自信をもって停止が出来るか判断をする過程。訓練士の「ここで止まりなさい」という指示から、犬が自発的に停止し、「何で止まったの?ああ段差だったんだね」と人が気付くレベルへ。“作る”から“使う”への変換点になる過程。
T&Eレベルを超えた犬で、段差停止の作業に自信を持っている犬に対して、犬が止まろうとした時を見計らって「ゴー」の指示を与える。しかし犬は指示を無視して段差で停止するようになる過程。
訓練士が訓練犬に段差を教えている様子。あごをなでて褒めている
段差の停止においては昇りであろうが降りであろうが縁石から5cm以内に両手をそろえて停止することを求める。降りは止めるが昇りは止めないで通過させる盲導犬協会が多いなかで、私が昇降共に停止の作業を求める理由は、進行方向を変えれば、昇は降になり降は昇になるからである。どちらにおいても緊張感と一貫性をもって対応するために、私は昇降共に停止することを求める。
このように犬は“段差探しゲーム”を楽しみ、次の段差を探す動機とする。段差における学習の条件刺激は訓練士によって教えられた「カーブ」という言葉で始まるが、最後は段差の存在を視覚的に確認できない使用者にその存在を知らせるために、段差そのものが環境刺激となり犬に停止を自発させるということを求める。
角、障害物(地上、頭上、動く人など)も同じように環境刺激によって停止、迂回などの行動をとり、視覚障害者にその存在を教える。中には水たまりや木の枝のような頭上の障害物など、犬が正しく作業をすれば盲導犬使用者には何も起こらない(気が付かない)こともある。
人は気が付かず、犬にフィードバック(作業を確認し褒める)がされないため、犬の作業継続の動機、意欲の維持が難しい課目などがある。そのために歩行指導員は使用者に、犬のいつもと違う行動に対して否定的ではなく肯定的にフィードバックを行うことを求める。
フィードバックには必ず対象となる行動が必要で、それがない場合には作ってでも犬に行動をとらせる必要がある。例えば犬を褒めようとしたらただ口だけで褒めるのではなく犬の出来ることを指示し、その行動をとろうとした時に、人の言うことに関心をもって聞き学んだことを行動に移そうとするその態度を褒める。同じように口だけのNoではなく、何が違うのか、何が正しいのかを即座に提示できるとき以外はNoは使うべきではない。
(注)訓練士には、犬の訓練を行い盲導犬を育成する盲導犬訓練士(GDT)と、犬の訓練だけでなく、視覚障害がい者に盲導犬の扱い方や歩行を指導する「盲導犬歩行指導員(GDI)」の2つの資格があります。GDT取得後、規定数の共同訓練を担当したのちGDIの受験資格が得られます。GDI資格を取得できるまでにおよそ5年程度かかります。